リオスデジタル六法  労働基準関係判例集

賃金等請求(全日本検数協会事件)
H14.8.23神戸地判決平成13年 (ワ) 868、平成14年 (ワ) 773(一部認容、一部却下)
賃金カットを定めた就業規則変更が無効とされた事例
体系項目就業規則/就業規則の一方的不利益変更/賃金・賞与
出典労働判例836号65頁
判決理由  新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないというべきである。そして、上記にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。そして、上記の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。〔中略〕
 原告らは、いずれも41歳以上で、かつ、平均年齢は52歳であり、子女が高校生や大学生であったり、住宅ローンを抱えていることが予想される世代であるにもかかわらず、基準内賃金の50パーセントを3年間にもわたってカットされることになれば、早晩、家計に破綻をきたすことは明らかというべきであり、現に、原告らの月額賃金額は、本件賃金カットにより、最も多い者でも18万8160円にすぎず、最も少ない者では15万6300円にまで減少しており、原告らの中には、子女の学費の支払や住宅ローンの支払に窮したり、生命保険や財形貯蓄を解約して生活費を捻出したり、親と同居してその援助を受けてようやく生活している者もあることも、前記認定のとおりであり、原告らが本件賃金カットによって被る不利益はあまりに大きく、50パーセントの賃金カット率及び調整手当による港湾産別協定の最低賃金の確保が、原告らの生活実態を考慮した合理性を有するものとはにわかには認めがたい。また、神戸支部職員組合は本件賃金カットと同様のカット率について同意しているとの事実も、その不利益の大きさに照らすと、その合理性を裏付けるものとはにわかには認めがたい。
 しかも、神戸支部の赤字が突出しているのは事実としても、前記認定のとおり、その赤字の原因としては、阪神・淡路大震災という客観的外部的要因の影響が大きいことからすれば、それによる不利益を神戸支部の従業員のみに負担させるのは酷である。また、被告が、その経営改善策として、各支部毎の独立採算的運営を重視しているとはいっても、本来的には全国規模の単一の事業体であることからすれば、前記のような客観的外部的要因の影響が大きい神戸支部の赤字への対応については、被告を挙げての取り組みがむしろ必要と考えられ、他の支部においても相応の負担をするといった運営が考慮されて然るべきである。支部独立採算的運営による神戸支部独力による赤字の解消を図るために必要なカット率に緩和措置を行ったというだけで、50パーセントもの本件賃金カットを合理的であるとする被告の主張は、この点からもにわかに採用しがたい。〔中略〕
 本件賃金カットを定めた本件就業規則変更は、41歳以上の神戸支部従業員である原告らのみに対して、専ら大きな不利益のみを与えるものと言わざるを得ないうえ、その内容や十分な代償措置等がなされているかといったこと等を検討しても、その変更に同意しない原告らに対し、その不利益を法的に受忍させることを許容するに足りる高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとは認められない。したがって、本件就業規則変更は、原告らにその効力を及ぼすことができないというべきである。