リオスデジタル六法  労働基準関係判例集

損害賠償請求(関西医科大学研修医事件)
H14.2.25大阪地判決平成11年 (ワ) 4723 (一部認容、一部棄却)
研修医の過労死に対する使用者責任を認定した事例
体系項目労働契約/労働契約上の権利義務/安全配慮義務・使用者の責任
出典労働判例827号133頁
判決理由   Aは、被告の指導監督の下、被告病院において研修していたのであるから、そのような特殊な社会的接触の関係に入った一方当事者である被告は、他方当事者であるAに対して、信義則上、Aが研修によってその生命・身体を害さないように配慮する義務(安全配慮義務)を負っているというべきである。
 すなわち、被告病院における研修は、医師国家試験に合格した医師を臨床医に育成するという教育的側面があると同時に、他面において、医師免許を取得した研修医は、入院患者に対する採血・点滴、指導医の処置の補助など被告の業務の一部を研修の一環として担っており、奨学金名目で実質的にはその労働の対価と考えられる金員を受領していたことからすると、被告の具体的指揮・監督に基づき労働を提供していたと評価することもできるところである。そして、Aが従事していた初期の研修のみに着目すれば教育的側面が大きいとしても、その後は、研修医として主治医となったり手術を担当したりするなど被告の重要な業務の一部を担うことが予定され、更に順調にいけば2年間の臨床研修プログラムを終えた後も、他の同僚研修医や先輩研修医と同様に、被告病院又は被告の指示のもとその関連病院で医師として勤務することが予定されていたと認められるから、研修医の研修は、その内容が高度に専門的であるため長期にわたってはいるが、一般企業でいうところの新人研修的な性格を有しているということができる。つまり、医師のような高度に専門的な職業の場合、医師国家試験に合格した後、臨床医に必要な知識・技術を修得するためには相当の研修を積まなければならないことは当然であり、その初期において教育的側面が強いとしても、研修医が将来的にも被告病院やその関連病院で勤務しようとすれば、どうしても被告病院の指導監督の下に行われる研修を忠実に遂行していく必要があるのであるから、臨床研修には徒弟的な側面が存することも考慮すれば、研修医と被告病院との間には、教育的側面があることを加味しても、労働契約関係と同様な指揮命令関係を認めることができるというべきである。
 したがって、被告が負う安全配慮義務の具体的内容は、このような被告とAとの関係に即して判断される必要がある。
 (2) 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところであり、このことは、本件のような研修医の研修においても同様である。したがって、上記のような被告病院と研修医との関係に照らせば、研修医を指導監督等する被告としては、被告病院における研修の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して研修医の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っているというべきである。〔中略〕
 しかるに、被告は、研修時間を管理するなどして研修が研修医の健康に害を及ぼさないようにする措置を講じることは一切せず(〈証拠略〉)、また、被告病院における研修開始時に健康診断を行うことはなく、また、研修中に被告病院のB医師はAが数秒ほど胸を手で押さえて静止していたのを目撃し異変を感じたことがあったにもかかわらず、そのことが耳鼻咽喉科の研修責任者らに対して報告されたことはなく、またAに対して精密検査を行うなどの措置もとられていないことからすれば、被告は、研修医に対する健康管理に対して細心の注意を払うことができる態勢すら作っていなかったと認められる。
 したがって、被告は、Aに対する安全配慮義務を怠ったというべきであり、そして、被告が、この安全配慮義務を履行していれば、Aの死亡は回避できたと考えられるから、被告の安全配慮義務違反とAの死亡との間には因果関係があるというべきである。なお、仮に万が一、Aの死因がブルガダ症候群に基づく突発性心室細動による突然死であったとしても、研修時間等の適切な管理などが行われていれば、突発性心室細動の発生を防止できたと考えられるから、被告の安全配慮義務が否定されることはない。よって、被告は、原告らに対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う。