リオスデジタル六法  労働基準関係判例集

損害賠償請求(東加古川幼稚園事件)
H9.5.26 神戸地裁判決 平成6年(ワ)692 (棄却)
保育所を退職して一か月後に、うつ状態で自殺した保母につき、その死亡と勤務条件との間には相当因果関係は認められないとして、安全配慮義務違反に伴う損害賠償請求が棄却された事例
体系項目 労働契約 / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮義務・使用者の責任
出典 労働判例744号22頁
判決理由  二 右認定事実によれば、二俣園における保母の業務は半数以上が既に三歳児になっていたとはいえ、園児一九名に対して、保母が二名と少ないうえ、給食の食材の購入や調理の仕事も兼ねていたこと、Aの一日の労働時間は、一〇時間ないし一一時間に及び、ゆっくり昼食を取れない時もあったこと、Aは日曜日に出勤する機会も多かったこと、被告園において、平成四年一〇月及び一二月には、それぞれ一五名中一名の保母が、翌年三月には一五名中八名の保母が、同年五月には一三名中八名の保母が、翌六月には一三名中二名の保母が退職していることから、被告園におけるAの仕事内容は、比較的厳しいものであったと考えられる。
 しかも、Aは二月中ころに、被告BからK園の責任者となることや園児に対しコンピューターソフトを用いた指導をすることを告げられ、三月一四日には四月以降のK園のデイリープログラムやコンピューターによる年間指導計画を立てていること、三月二三日には二俣園からK園に園児と共に移動し、慣れないK園での保育に携わっていたこと、また、同月二八日は日曜保育のため出勤し、同月二九日からは新任保母を交えてK園の引継ぎを行っていたもので、Aは、同月末には、新しい仕事に対する不安、責任感、環境の変化等で精神的にも肉体的にも疲労していたことが容易に推認できる。
 しかしながら、Aの入院期間は僅か一日であり、診察した医師も、Aの症状を精神的ストレスによる心身的疾患だとし、うつ病若しくはうつ病に似た症状であるとは考えなかったこと、その後Aは何らの治療も受けていないこと、Aはその後次第に元気を取り戻し、四月一一日に洗礼を受けてからはAの生活状態は正常となり、洗礼の前後に書かれた感謝の手紙(〈証拠略〉)からもうつ状態を窺わせるような記載も認められないこと、Aはその後就職活動を始めていること、退職後被告園を訪れた際も、勤務していたときの状態と変わらない様子であり、精神的肉体的疲労からかなり回復していたと認められ、右事実にAの被告園における勤務は僅か三か月足らずであること、Aが自殺したのは退職後約一か月後であること等の事実に鑑みると、Aの被告園における業務とAの自殺との間に因果関係は認められないというべきである。