リオスデジタル六法  労働基準関係判例集

損害賠償請求(石川島興業事件)
H7.07.31 神戸地姫路支裁判決 平成3年 (ワ) 605 認容,一部棄却
工場内での交通事故による負傷により入院した労働者が、退院後二週間で仕事に復帰し、復帰後二か月の時点で急性心不全により死亡したケースにつき、会社に作業時間を軽減するなどの安全配慮義務違反があるところ、右義務違反があるとして、損害賠償の支払を会社に命じた事例
体系項目 労働契約 / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮義務・使用者の責任
出典 労働判例688号59頁
判決理由  9 被告の安全配慮義務違反の事実(請求原因3(一〇))について
 (一) 被告の注意義務について
 使用者は、労働者を雇用して自らの管理下に置き、その労働力を利用して企業活動を行っているものであるから、その過程において労働者の生命、健康が損なわれることのないよう安全を確保するための措置を講ずべき雇用契約に付随する義務(安全配慮義務)を負っており、したがって、労働者が現に健康を害し、そのため当該業務にそのまま従事するときには、健康を保持する上で問題があり、もしくは健康を悪化させるおそれがあると認められるときは、速やかに労働者を当該業務から離脱させて休養させるか、他の業務に配転させるなどの措置を執る契約上の義務を負うものというべきであり、それは、労働者からの申し出の有無に関係なく、使用者に課せられる性質のものと解するのが相当である。
 そして、本件におけるYの復職時の健康状態は、前記のとおり、直ちに本件交通事故前と同様の作業内容に従事できる状態になかったのであり、被告も右事実については、横田その他の同僚を通じて容易に知り得る状況にあったものと認められるのであるから、その復職にあたり、被告としても、Yの主治医と十分に相談し、あるいは産業医による判断を仰いだ上、Yの健康状態に応じて、残業及び宿日直勤務を禁じ、または、その作業量及び作業時間を制限し、あるいは右制限のみで不十分な場合には、その職種を変更する等の措置を講ずるべき義務を有していたものというべきである。
 (二) そこで、次に、本件において、被告が右義務を履行していたか検討する。
 (1) 右の点につき、被告は、Yの復職にあたって、工場長である横田がYに体調等を確認したことによって復職の可否についての注意義務は果たした旨主張し、(人証略)中にもこれに沿う供述部分が存在する。しかしながら、右(人証略)により認められる確認内容も、医師の判断等を前提にするなど医学的裏付けを基礎になされたものとは認められないし、本件全証拠によっても、被告がYの復職にあたって主治医等に復職の可否を確認した事実も認められない。
 また、土曜出勤及び残業のみならず、宿直及び日直勤務についても、単に拘束時間が増えるだけではなく、実作業を伴い、疲労の蓄積につながる業務であるにもかかわらず、Yが右各勤務を行うについて、被告においてその可否を検討した事実も認められない。
 したがって、本件復職に際し、被告が行った確認行為の内容及びその程度は、前記(一)において課せられた被告の義務内容に照らすと、不十分な内容と言わざるを得ず、右の点において被告が十分に注意義務を果たしたものとはいえないこととなる。
 (2) また、被告は、Yの復職に際し、出荷作業から仕上げ作業に変更したのは、Yの作業量の軽減を考慮したものであるし、Yには自己のペースに併せて作業するよう指示し、また、職長及び班長には、Yが自己のペースで仕事できるよう協力してやって欲しいと他の作業員に話しておくよう指示した旨主張する。
 しかしながら、本件全証拠によっても、出荷作業と比較して仕上げ作業が肉体的・精神的に疲労が少ない作業であるとは認められないし、前記認定のように、現実にYが他の作業員との比較において、特に休憩を余分に取っていた事実も作業量においても差異があった事実も認められないから、本件において被告の右主張を認めることはできない。
 (三) 以上のとおり、本件では、被告には、Yの健康状態を悪化させないよう業務の量的、質的な規制措置を講ずる安全配慮義務が存在したところ、被告が右義務を尽くした事実は認められないし、又、被告が前記措置を執りえなかったとする事情は本件証拠上何らこれを窺うに足るものはないから、被告について過失が無かったということもできない。
 被告は、復職については、被告がこれを強制したものではなく、専らYの判断によるものであるし、また、Yからは、何ら体調に異常がある旨の申し出もなされなかったと主張するが、被告の負う前記安全配慮義務は、労働者の申し出により始めて生ずる義務ではなく、労働者の使用という事実により当然に発生するものであり、また、被告もYの前記療養の事実を認識していたのであるから、被告主張の右事実が存在したとしても、被告がこれにより免責されるものではない。
 したがって、被告は、安全配慮義務の債務不履行によってYに生じた損害を賠償すべき義務があるというべきである。