賃金請求(国鉄蒲田電車区事件)
S63.02.24 東京地裁判決 昭和59年 (ワ) 5507 棄却(控訴) 
終業時刻三〇分前からの勤務時間内の洗身入浴の慣行の存否に関連して賃金カット分の支払が請求された事例
出典 労働判例512号22頁
判決理由  (一) 労使慣行は、それが労働契約の内容となる場合には労働契約としての、就業規則ないし労働協約の解釈基準等としてそれらと一体のものとなるときは就業規則、労働協約としての効力を持つものと解され、その成立のためには、同種行為又は事実が長期間反覆継続されていること、当事者が明示的にこれによることを排斥していないこと及び当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有し、あるいはその取扱いについて一定の裁量権を有するものが、規範意識を有していたことを要するものというべきである。したがつて、当該取扱いが就業規則の規定と抵触する場合において、右取扱いが労使慣行となり得るためには、右就業規則を制定改廃する権限を有するものか、あるいは実質上これと同視し得る者が、当該慣行について規範意識を有していたことを要することになる。したがつて、仮に、右のような権限を有しない者が勤務時間を短縮する取扱いをしたとしても、前記権限を有する者がこれを是認しない限り、右取扱いは就業規則に抵触するものとして法的効力を有する慣行となるものではない。そうすると、かかる者によつて勤務時間の短縮が実施され、それが相当期間に亘り反覆継続していたとしても、これをもつて労使双方を拘束しうる労使慣行が成立していたものということはできない。
 証人Aの証言に弁論の全趣旨を総合すると、勤務時間内における洗身入浴が開始されたころより、被告は右洗身入浴が就業規則に抵触するものであり、早急にこれを是正しなければならないものと考えていたが、当時被告においては、業務命令系統の整備等、勤務時間内の入浴問題の是正に先立つて緊急に是正しなければならない問題があつたことや、当時の被告における最大の労働組合である国労との紛争をできる限り避けるための配慮から前記昭和五六年一一月ころまで特別の措置をとらなかつたものであることが認められる。したがつて、被告が、勤務時間内の洗身入浴を認めた両電車区長の前記措置を明示または黙示に承認していたということは未だできない。
 (四) 以上の次第で、池袋、蒲田両電車区長において勤務時間内の洗身入浴を認め、それに従つて右両電車区に勤務する原告ら従業員が相当期間に亘り慣行的に勤務時間内の洗身入浴を繰り返していたとしても、本件洗身入浴当時右両電車区において勤務時間内における洗身入浴が法的効力を有する労使慣行として成立していたものということはできない。
 4 しかしながら、勤務時間内の洗身入浴につき被告は右のように違法の認識を有していたとはいえ、長年に亘り効果的な対策もとらないままこれを放置して来たこともまた既述のとおりであり、いわば慣行的事実が存在していたといい得ないわけではなく、かかる経緯に鑑みると被告において右洗身入浴に対し賃金控除の措置をとるのであれば、右洗身入浴が違法なものであることを原告ら従業員に周知せしめる必要があつたものといわなければならない。